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伝統文化は国の支柱というべきものだ。未来へ引き継ぐのは、今を生きる者の使命である。困難なときこそ知恵を出し、国を挙げて守らねばならない。
日本の伝統芸能の聖地ともいえる国立劇場が老朽化を理由に昨年10月末に閉場した。
ところが、再整備事業の入札が2度にわたって不調に終わり、再開のめどが立たない。令和11年度末という再開場の延期は必至だ。
「大変ゆゆしき問題」と強い危惧を表明したのは歌舞伎俳優の中村時蔵さんだ。文楽や雅楽、古曲、日本舞踊など各界を代表する10人が日本記者クラブで会見した。口をそろえたのは国立劇場のない「空白」期間が長引くことのリスクである。
日本のみならず世界各国にある舞台芸術は、その国民性や風俗を色濃く反映した文化だ。演目と演者、劇場や音楽、美術などと、観劇者がそろって初めて成立する総合芸術である。
同時に師から弟子へ、親から子へと受け継がれる無形の文化財でもある。空白期間が長引けば若手が研鑽を積む機会を損なうことになりかねない。
例えば閉鎖中は他の劇場を利用せざるを得ないが、歌舞伎や日本舞踊に欠かせない花道がある劇場は少ない。長い目で見れば存続そのものにも大きな影響を及ぼすかもしれない。
国立劇場は昭和41年に開場した。当初から歌舞伎などで全幕上演する「通し狂言」や、埋もれた作品を蘇らせた「復活狂言」を行ってきた。歌舞伎俳優ら継承者の育成、調査や資料収集機能も担っている。
日本舞踊・京舞井上流の人間国宝、井上八千代さんは会見で「文化施策が後に回っていいのか。後回しにされるほど小さな問題ではない」と危機感をあらわにした。
そもそもなぜ建て替えが必要か、原点に戻って考えてみてはどうだろう。当初は大規模改修工事案だった。改修なら、少なくとも空白期間はもっと短くて済む。いずれ建て替えが必要になる時期がくるが、それまで時を稼ぐという柔軟な考え方もあるのではないか。
国立劇場の建て替えは目先の10年、20年の問題ではない。日本文化百年の計の一部と考えてもらいたい。未来に今ある舞台芸能を残すため、大きな判断が必要だ。
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2024年2月27日付産経新聞【主張】を転載しています